多機能型精神科医療における医療連携について
精神科医療の役割は症状消失のみならず、社会生活におけるリカバリーと、その先にある患者本人の自己実現を達成するためにWell-being(健康的で良い状態)を目指す必要があります。その解決に向け医療者は、本人に寄り添い、共に歩んでいくことが大切ですが、本人の病状、取り巻く環境により、本人・家族が困っている事、悩んでいる事は様々あります。精神科クリニックにおいて、外来診療、カウンセリングに加えて、精神科訪問看護・在宅診療の在宅医療や、デイケアでの精神機能リハビリテーション、うつ病などで休職された方への気分障害リワークプログラム、精神障害者就労支援など様々な治療がありますが、これには医師の力だけではもちろん限界があります。その多様的な状況に対して、一人ひとりに最適な医療を提供するためには、医師だけでなく、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士など多職種による多機能型のアプローチ、「多機能型精神科医療」が必要ではないかと考えています。
「多機能型精神科医療」はチーム医療といえますが、チーム医療自体は、ひとつの医療機関だけで成り立つものでは本来なく、さまざまな職種、医療資源などとの横断的な連携を含みます。急性期医療のみならず、回復期のリハビリテーション、慢性期の療養、地域連携などあらゆる場面において求められます。地域の医療資源はチーム医療の一員であるということは、厚生労働省のチーム医療推進方策検討ワーキンググループにおいても示されており、医療・介護・福祉の連携が重要であることを述べています。また在宅医療において、各医療機関と訪問看護を担う機関が提供する医療に関する哲学や実際のやり方を共有することが医療連携には大切だと言っています。
医療連携には、それぞれの職種・医療資源がそれぞれ異なった価値観で関わるということが必要です。異なった価値観で関わるということは、医療、介護、福祉そして行政それぞれが専門職であり、その専門性を発揮して取り組むということが必要です。専門性であるがゆえ、そこには自由意志が存在するべきですが、自由意志が存在するゆえに責任性が生じることとなります。しかし、医療、介護、福祉はそもそも不確実性なもので、そこから発生する責任を個々で背負うことには限りがあり、そのために責任を共有することが大切であります。ここで注意しなければならないのが、責任の共有は責任の分散ではないことです。責任の分散は「傍観者効果」という集団心理から来ているもので、「傍観者効果」には周囲に人がいればいるほど、多数の医療機関、医療資源が関わっていればいるほど、援助行動が抑制されてしまうという落とし穴があります。本人を片方に任せただけ、丸投げとなってしまっては、当事者意識が欠けた傍観者を作り出すこととなり、本当の医療連携とは言えません。「責任の共有」が可能となりうる構造が地域医療も含めたチーム医療であると言えます。
オープンダイアローグという治療技法があります。直訳では「開かれた対話」の意味で、統合失調症やうつ病などの本人と家族、医師、看護師、臨床心理士らが、本人の希望する場に集まり、じっくりと話に耳を傾けるもので、結論を急がず、本人の話を受け止めて全員で意見を交わしていくという治療構造で、薬物療法が中心となってしまっている精神科医療に一石を投じるものです。対等な関係の話し合いを重ねることで、治療効果があるといわれています。そもそも医療と患者本人は治療契約の中において対等な関係であり、そこにはヒエラルキーがあってはいけません。これには、医療スタッフそれぞれも対等な関係であり、医療機関、医療資源も同様に対等な関係であります。それぞれの専門性もってそれぞれの立場が異なるというだけです。
「多機能型精神科医療」には、精神科だけに限らず、さまざまな医療機関、医療資源との医療連携が必要であり、それぞれ対等である関係が、本人のより良いアウトカムに繋がるものと考えています。
リンクスメンタルクリニック 院長 青山 洋