Well-being を目指して

 精神神科医療の役割は症状消失のみならず、社会生活におけるリカバリーと、その先にあるWell-being(健康的で良い状態)を目指す必要があります。その達成に向け医療者はリンクスwellbeing図、ご本人に寄り添い、共に歩んでいくことが大切です。しかし、ご本人の自己実現を達成するためには、医師の力だけでは限界があります。

 そのため当院では、生物学的(Biological)、心理学的(Psychological)そして社会的(Social)な三つの軸)を重視し、医師だけでなく、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士など多職種が協働して、それぞれの立場に責任をもって、ご本人やそのご家族が困っている事、悩んでいる事に対して向き合っています。それらはご本人の病状、取り巻く環境によって様々です。その多様な状況に対して、一人ひとりに最適な医療を提供するためには、その多職種による多機能型のアプローチが必要ではないかと考えております。また事務員も、クリニックの玄関口として、安心した医療環境であることの印象をいただけるために、重要な役割を担ってもらっています。

多機能型精神科医療 ~三つの軸~

 一つ目の軸である生物学的な介入は、薬物療法が代表的ですが、当院では、薬剤師がデイケアにて服薬相談を行い、そこではSheared Decision Making(SDM)による治療者-患者双方向性の治療構造を取り入れています。薬物に対してのメリット・デメリットを共有し、薬物に対してお互いが納得したうえで、医師とご本人が最終的に判断する、ということを繰り返し行います。同じ方向で問題点を解決していくという治療構造であり、ご本人の治療動機付けにも繋がります。

 また二つ目の心理学的な軸ですが、精神科臨床では、病状に心理的要因が関与していることが少なからずあります。その心理的要因にも目を向け、心の内側にある不安や葛藤といった困難も含めて、手当てをする必要があると考えています。すなわち、ご本人のWell- beingを維持していくためには、表面的に現れた症状のみならず、その背景となる心を理解し、ともに感じ、考えることが不可欠となります。その時にしばしば道に迷うことがあるかもしれません。そのために臨床心理士による「よろず」相談として、様々な困りごとをお伺いする場を設けております。また必要に応じて、心理相談、心理療法、心理検査を診療と併行しております。

 そして三つ目は、社会的な軸ですが、精神保健福祉士が中心となり、ご本人のリカバリーに向け、社会的アセスメントを行い、課題に対する現実的対処を進め、それに基づく社会資源の活用を共に考えていきます。ご本人が本来持っているエンパワメントを向上させるお手伝いをしていくことが必要と考えています。さらに、社会生活におけるリカバリーには、特に機能リハビリテーションが重要であり、当院のリハビリテーションの主軸であるデイケアでは、主に作業療法士や精神保健福祉士、看護師が、認知行動療法(CBT)や社会生活技能訓練(SST)そして、リワークプログラムを系統的に行っております。ここで特徴的なのが、うつ病CBTなどの疾患別のCBTに加え、症状別のCBTなどを機能的に行っている点です。不安のCBTや、こだわり傾向CBTなど疾患にとらわれず、ご本人が困っていることに対して、各プログラムを選択いただいております。セルフエスティームCBT、アサーションSST、就労SSTなども、患者さんに好評を得ております。リワークプログラムも、期間を限らず病状に合わせて行っています。また、サロン的な時間のゆったりとした居場所としてのデイケアも提供しています。

多機能型精神科医療 ~早期回復のために~

 Well-beingを維持するために、この三つの軸は、ご本人それぞれでバランスは違えども、基本的にはどれも不可欠であり、密接に結びついています。ご本人と話し合いながら、病状とご本人のニーズを理解し、これらをコーディネートしていくのが医師の重要な役割と考えています。これらがうまく機能することで、リカバリーの達成に結び付き、最終的には幸福な人生としてWell-beingに至るのではないかと考えています。そのため、初診の段階から、精神保健福祉士や臨床心理士が関わるように取り組んでおり、情報の共有を早い段階から行っています。そうすることで、多職種医療スタッフが、それぞれの視点を持ち寄り、ご本人に必要な医療についてカンファレンスをすることが可能となり、ご本人の早期回復に繋がっていると実感しております。

地域に根差した精神科医療

 また、在宅医療(精神科訪問診療・往診、精神科訪問看護)にも力を入れており、急性期治療からリハビリテーションに至るまでに、通院が困難となったり、自宅療養が困難となったりした場合に、在宅医療が関わることで、よりリハビリテーションに移行できるようお手伝いができればと考えております。

リンクスメンタルクリニック院長 青山 洋