ノーマライゼーションについて -訪問看護の立場から-
精神障害を持つ方のノーマライゼーションについて、私たち訪問看護のスタッフが、日々どんなことを頭の中で巡らせながら仕事をしているかお伝えしたいと思います。
訪問看護では、その人の住む空間にスタッフが伺って援助をします。言い方を変えれば、そのお住まいに私たちが一定時間「居る」ことが許されなければ訪問看護として始まりません。訪問スタッフがお宅にお邪魔することを「いいよ」と受け入れてもらえる関係作りから始めなければ援助が始まらないわけです。簡単に言うと「信頼関係」が肝心です。ここにノーマライゼーションの理念がとても重要となります。
例えば、その人のご希望をお聞きし、できるだけご希望に沿った援助をして差し上げること、そうすることは、わかってもらえた安心感や欲求の充足から信頼関係に繋がるだろうと考えます。しかし、その関わりをする時には私たちは立ち止まって考えます。「今、私がやろうとしていることはその人の持っている本来の力(自立)を引き出す関わりと言えるだろうか?」と。
どんな人も現実社会に向きあうときに、圧倒されて現実を見る目が曇ってしまっていることがあります。自分を脅かす何かから逃げようとするあまりにあらぬ方向へ行動してしまうこともあります。そのような表面化されている「問題」を、そのままダイレクトに手助けしてしまうと、一時的に解決されたように見えることがあります。しかし、セルフケアの可能性に蓋をし、ご本人の自立の機会を逃してしまうことにもなりかねないのです。
私たちは、問題となっていることの現実的な情報を見極め、その上で、その人の主体性を尊重した関わりとは一体何だろうかと考える必要があります。どう介入したら良いのか答えは一つではないでしょうから、主治医、PSW、心理士など多職種で相談するとより深まります。可能ならばそれをご本人と一緒に考えることそのものが自立への援助となるでしょう。訪問看護は、その人が社会適応的で自分らしい判断を下せるように支援するのが役割。それは、自己の価値観と自己選択・自己決定を尊重される体験、つまりノーマライゼーションの理念に繋がると考えています。
しかしそうは言っても、良かれと思って援助したことが、気づかないうちに自立を妨げ、自尊心を傷つけてしまうことがあると思います。そうならないために以下のことを大切にしています。
<中立的で公平性である安定した関係>
極端に言えば、訪問スタッフが優しくなったり厳しくなったりすると利用者さんは無意識に訪問スタッフから言われたことに甘えたり傷ついたりする関係になってしまいます。それから、訪問スタッフが家族寄りだったり、主治医寄りだったり、利用者寄りだったり、そう見えてしまうと、利用者さんが向き合うべき問題の焦点がずれてしまうことがあります。現実を共に考える関係になるためには頼り過ぎてしまうでもなく脅威でもない、いつも変わらない態度の安定した関係性が大事だと考えています。
<治療構造という概念>
精神科では「治療構造」という言葉がよく出てきます。簡単に言うと治療上の取り決めです。訪問看護でできる範囲はこれですよ、クリニックの治療で出来る対応はこれですよと取り決めをします。その人を支援する周囲の人たちの役割・限界を明確にするということです。融通が効かない不親切に見えるかもしれませんが、そうではありません。社会生活はルールの中にあり、治療構造もまた社会の一場面であります。それを越えたとき、社会的にあらぬ方向へ行動してしまっていることに気づいてくださいよという線引きをはっきりさせることが重要なのです。
当院では、ご本人ご家族はもちろん、その人の支援をされている地域スタッフの方にもお越しいただいて構造について話し合うことを大切にしています。
訪問看護師 板倉裕美