目指すべき地域生活とリンクスメンタルクリニック
自立という言葉は医療、福祉の現場で多く用いられていますが、曖昧な表現での使用が散見されます。生活自立、社会的自立、経済的自立、そして精神的自立の各段階があるとの理解が必要で、順に高度なスキルが必要となってきます。当法人の目指すべき姿である、Well-beingを目指して、障害の有無にかかわらず、皆が「健康な生活」を送るためには、精神的自立の達成が必要不可欠です。当法人は皆さんの精神的自立の達成に向けて多職種協働でサポートしておりますが、自立の各段階を達成していくために必要なこと、その規定概念としてノーマライゼーションがあります。そのノーマライゼーションについては、各部門からも当コラムでお伝えさせて頂きました。
実際に「健康な生活」のためには、まずは、人は社会で生活をしており、その生活を営むために必要な各々の状態がどういうものかということと、生活の環境がどういうものかを考えなければなりません。厚生労働省の地域生活支援事業では、地域生活支援において、当事者は自立した日常生活又は社会生活を営むことができるようということと、国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現を言っています。「自立した」生活を目指すことが必要であり、「安心できる」環境を整えることが必要であります。
当事者は様々な要因で自立が適っていないことがありますが、自立を促進していく際に、自分の状況がどの段階であるかを知ることが重要で、その段階によっては、置かれる環境やそこで関わる医療スタッフの対応も変わります。そして、それぞれの場面で「医療の構造化」が図られていることも重要です。
例えば症状により生活自立が妨げられている場面では、それが外来診療なのか入院なのかという治療構造の検討が必要です。症状が落ち着いたとしても、社会的自立が得られていない状況では、デイケアに週5日通所できるような、生活構造を整えるリハビリが優先される場合もあります。そして経済的自立のために、例えば就労準備チームという構造が必要で、またリワークも特に産業医学界では最も重要視されている構造です。ここでは主にCBT(認知行動療法)やSST(社会生活技能訓練)、IMR(疾病管理とリカバリー)などの治療作用のリハビリを行う必要があり、それら治療作用のリハビリを進めながらその先の精神的な自立を目指していくべきであると考えます。ここで注意しなければならないのは、精神科機能障害自体、アウトカムに複雑性があり、それぞれの置かれている立場や年齢などによって対応が異なってしまう難しさがあります。アウトカムを達成するために周囲はどう関わっていく必要があるか、症状に囚われて、また周囲の影響によって引き起こされた本来の生活からの逸脱に対して、どう向き合うか、難しさがあるがゆえ、「医療の構造化」のなかで進めていく必要があると考えます。
これら治療的介入の中の生活を「治療的地域生活」と呼ぶならば、その先のいわゆる、安心できる「一般的地域生活」に向けて、当事者の自分の中にある目標を設定し、自己効力感を高め、文化的な生活を送ることへの協同作業が我々の持つ精神科機能リハビリテーションであるとの信念のもと、当院では日々診療に当たっております。
リンクスメンタルクリニック 院長 青山 洋