地域に1番近い精神科医療~臨床心理士の視点から~

2021.10.14

 精神科医療が“地域に1番近い”存在=地域のあり方に寄り添いながら展開するものであろうとすることの意義は、立場や役割によって様々に見出せるものだと思います。その1つとして、私達の生活は地域の中で展開されるものであり、1人ひとりの満足のいく生活を実現(=よりよく生きるwell-beingを達成)する場は地域社会の中であるから、ということがあげられると思います。今回のコラムでは、well-beingの達成は地域社会の中でなされるものということに焦点を当て、お伝えしようと思います。

 私達の“生活”は、大きくとらえると公的な側面と私的な側面の2つから成り立っています。公的な側面は仕事や学校といった社会に出たところでの営み、それ以外の営み(家庭や近所付き合い、趣味の集まり等)は私的な側面ととらえられると思いますが、いずれにせよそれを行う“場”が不可欠です。4月のコラムの中で院長がリンクスメンタルクリニックのある都筑区の特徴をお話ししていたように、地域によって持つ歴史、文化、人口層、メジャーとされる暮らしのあり方は様々です。地域を職場や学校といった小さい括りに置き換えてみるとイメージがしやすいと思います。地域ごとに特徴が異なるということは、どこに自分の拠点(=生活を営む場)を置くかによって私達が求められること、期待されることは、異なってくるということでもあります。その場に馴染む、適応していくためには、その環境から求められていることも知り、応えていくことも欠かせません。馴染むこと、適応することに注力するうちに、自分が求めているもの、求めていたものを見失ってしまうこと、諦めてしまうこと、あるいはこれが当たり前とそれ以上のものを求めたり、望んだりしなくなってしまうことは往々にして起こることなのではないかと思います。しかし、これではwell -beingは遠のくばかりです。well -beingの達成にあたり大事なことは、いつもお伝えしているように、ご自分の中の「~したい」「~でありたい」といった欲求です。これが見失われていたり、ぼやけてしまっていたりすると各々の生活を展開している場が持つ様々な特徴・資源を有効活用することもできません。

 1人ひとりの満足のいく生活、それがどのようなものであるのかを探求し(心療部:医師・臨床心理士からなる)、その実現に向け、今いる場の特徴・資源を知り、どう生かしていくかを考えたり(メディカルサポートセンター:精神保健福祉士からなる)、実現に向けた行動が取りやすくなるような工夫をしたり(バイオセラピー部:薬剤師・管理栄養士からなる)、実現に向けた準備をしたり(機能リハビリテーション部:デイケアでの集団プログラムを行う)、1人ひとりの満足のいく生活の実現に向けた道のりを一緒に歩むこと、それが地域に1番近い精神科医療の1つの形なのではないでしょうか。

 当院では、皆様の「~したい」「~でありたい」という欲求や実現に向けた課題の探求に向け、医師による診察、臨床心理士によるよろず相談・精神分析的精神療法・心理検査を実施しております。世情によっても中々前に目を向けにくい現状ではありますが、1人ひとりの満足のいく生活の実現(=よりよく生きるwell-beingを達成)に向けた1歩目としてご利用いただければと思います。

臨床心理士 横澤 希美