地域に一番近い精神科をめざして
精神科医療の役割の一つに、当事者が自立した日常生活を送れるよう、安全な地域生活に向けた調整があります。治療的介入の中の生活を「治療的地域生活」と呼ぶならば、その先のいわゆる、安心できる「一般的地域生活」を目指していく協同作業が必要であることは、以前当コラムでお伝えさせていただきました。その安心できる環境を目指していくにあたり、その地域の特性やそこで生活されている方の状況の理解も重要です。
当院は横浜市北部地域の都筑区にありますが、以前から居住されている方の多くは農業を営んでいました。昭和30年代には区南部の鶴見川沿岸への工場の進出が始まり、昭和40年からは港北ニュータウンの開発が進められました。当院の都筑区中川も港北ニュータウン街づくり協議区域に入っております。また少子高齢化で人口減少が叫ばれている中でも、都筑区は人口増が続き、15歳までの人口比率が県内トップ(H30)、子育て世代を中心とした人口構成で、横浜市内で最も平均年齢の低い区となっています。都筑区近隣の区、港北区、青葉区、緑区も都筑区と同様に、統計的に今後十数年は人口が増えるとみられております。川崎市宮前区は都筑区のすぐ隣ですが、こちらも人口増が続いており、若い世代が多く生活されております。
都筑区とその周辺の地域の方々に対して、我々に求められることは何か、取り組むべきことは何かと常々思いを巡らせております。月に一度、都筑区福祉保健センターにおいて精神保健相談をさせていただいておりますが、そこでは子育て家族のメンタルケアが求められていることを実感しています。ワンオペなど子育て自体の悩み、不登校の悩み、子供の障害の悩み、産後うつ病などの悩みなど。また教育現場を巡るメンタルヘルスの課題もあります。教育現場が多様化している中、教職員のメンタルケアも急務であります。各教育委員会との更なる連携ができればと考えております。
鶴見川沿いの企業に加えて、隣接する川崎市にも多くの企業があります。産業メンタルヘルスの需要も年々高まっております。当院は医療リワークとして復職支援、再休職防止のサポートに向けて、力動的精神医学のアセスメントをもとに、当事者、企業、主治医の意向を尊重したフレキシブルな期間でのリハビリ体制を整えております。
また若い世代が多いと言いましたが、高度成長期に竣工した団地などでの高齢化の問題もここにはあります。団地近くの各地域包括支援センターでは「8050問題」、社会的に親子が孤立し、あるいは親の年金に頼って生活していた子が親の死後に経済的に困窮するということが大きな問題となっており、医療の関りが必要なケースを多く抱えていると伺っております。
上記は地域の求める精神科医療の一端かもしれません。コロナ禍で活動が制限されている中では尚更です。地域に居住する方々のため、各医療資源と連携を取りながら、「地域に一番近い精神科」を目指して、職員一同努めてまいります。今年度もよろしくお願い申し上げます。
リンクスメンタルクリニック 院長 青山 洋