地域に一番近い精神科を目指して~訪問看護の立場か ら~
前回のスタッフコラムでは、メディカルサポートセンターの立場から「地域に一番近い精神科」とは受診しやすい何でも相談することの出来る「心のかかりつけ医療機関」を目指すことであるというお話しをさせていただきました。今回は精神科訪問看護の立場から、「地域に一番近い精神科」というテーマで、安定した地域生活を支えるとはどういうことかについて書いていこうと思います。
精神科訪問看護では、看護師や精神保健福祉士が皆さんの「生活の場」に訪問します。その生活の場である地域において、病気の症状や障害がありながらもその人らしく安心して生きていくということを支援するのが、精神科訪問看護の支援です。この支援を行っていくうえで私たちは常に「この人にとって安定した生活とはどういう生活なのか」と問い続けています。なぜなら、何が「安定した生活」なのかは、その方の価値観によって変わるからです。
したがって私たちはまず「その人らしさとは何か」から始めます。訪問を重ねながら、その方のこれまでのストーリーだけではなく、これからどう生きていきたいかを伺い、皆さんの思いに寄り添い、地域で自分らしく生きることを実現していくための支援を行っていきます。
私たちはこのような考え方のもと皆さんのお宅に伺いますが、もう少し具体的に、「地域でその人らしく生きる」とはどういうことか、それをどのように支援しているかについてご紹介したいと思います。
「その人らしさ」を考えていく過程で、「病を抱えながらも、最期までその人らしく生きていくことを支えるケア」であるという点で緩和ケアと精神科のケアが重なる面があると考えています。例えばパニック障害の患者さんの中にはできるだけ頓服を使わないでバスに乗って旅行が出来るようになりたいという方もいます。その方に対して「パニック発作が起きそうな場面の時は頓服で対処してください」というのは一方的な価値観の押し付けになってしまいます。しかしどう生きたいのかは本人によりますので、本人の主体性を支持しながら、楽しめる生活を送れるようにするための支持が重要だと考えています。ですので、上記の患者さんの状況においてはパニック発作が起きそうな場面において頓服使用以外にどのような対処法をこれまで生活の中で試してこられたのか、頓服を出来るだけ利用したくない気持ちも丁寧に聞きながら今の状況でその方が出来そうな工夫や対処方法はあるのかを一緒に寄り添いながら考えていきます。
地域に出向くとは、その方のその人らしさがにじみ出る生活の場に出向いていくことになります。例えばそれは、疲れた時に座る心地よいソファ、風鈴の音が聞こえる縁側、昔から大切にしている本等何気ない日常の一つ一つに触れることでもあります。そして、それはその方の大事にしている物事や人生においてどんな価値を大切にしているのかを感じることにもつながります。
当院の精神科訪問看護では皆さんの地域に出向いて精神科の病気に対する不安や心配なこと、人間関係や家族関係について、地域の社会資源や就労のこと等何でも相談することの出来るような安心できる関係性や環境を築いていけるように日々実践に取り組んでおります。
訪問時には病気の症状において調子を崩しやすいサインや良い状態を保つための方法や症状とどのように付き合いながら地域で生活をしていくかについて一緒に考えています。また、今後の目標に向けて体力をつけたいと希望される方と共に汗を流しながらスポーツや散歩、体操をしたり、ある時はこれからの人生の楽しみが見つかっていない状況に在る方と共にレクレーションを実施しながら、その方の「人生の楽しみ」を共に模索したりしています。
そして、日々の訪問で「今日お伺いするこの方は幸せでいるだろうか」という慈愛を大切にしながらその人らしく生きる幸せな人生について対話を重ねながら共に考えていきたいと思っております。
精神保健福祉士 永島美和子