「目指すべき地域生活とリンクスメンタルクリニック」~訪問看護の立場から~
「目指すべき地域生活」と聞くと看護師が当事者ご本人の生活の管理や指導を行うとイメージされるかもしれません。しかし、当院の訪問看護はそうではありません。今回は訪問看護が考える「目指すべき地域生活」とはどのようなものか、どのように支援をしているか、をご紹介させて頂きます。
訪問看護はその方の自宅に訪問し、その方のテリトリーに入らせていただく事になります。日常生活の全てが詰まっている場所に伺う為、診察の場面のみでは分からないその方の価値観を垣間見る事になります。
訪問看護で伺う上で、私達はその方の持つ価値観を大事にしています。例えばご本人が「良くなったら外に自由に出かけたい」「電車に乗って遠出がしたい」という目標があったとします。それに対して、医療的な観点から生活の改善点を「もっとこうしたら上手くいきますよ」とご本人へお伝えする事で解決への支援をしたとしても、ご本人自身の考える思いとは合わない事も多々あります。看護師側から自分の思いを押し付けるのは私たちの考える「目指すべき地域生活」への支援とは言えません。その方の価値観を尊重しながら一緒に歩んでいく事が訪問看護において大切だと考えています。その方が本当にしたい事はなんなのか、どういう生活でどんな物を大切にして生きていきたいのか、どんな未来を過ごしたいのか、といったその方自身の考えを訪問看護の中でお聞きしていきます。
しかし、希望や目標をお聞きして、すぐに何かが解決するかといったらそうではありません。目標に向けて日常の中で工夫出来そうな事であれば取り入れてもらい、その後の様子をお聞きし「難しかった。自分にはハードルが高かった。」という反応であればその方法は合わなかったので次はこうしてみましょうか?と一緒に対処法を考えていきます。試してみた事が全て上手くいく訳ではなく、手探りの中で一緒にその方らしい暮らしの実現に向けて一歩一歩日々を重ねていきます。時にはご本人が不安の気持ちを吐露し、私たちに感情をぶつける場面もあります。それもその方と私たちの関係性の中だからこそ表出してくれる本音でもあります。ご本人の気持ちを受け止め、表情や仕草から、実際はどんな事を心配に思っているのか、何を抱えているのかを訪問看護の中で汲み取っていきます。
ご本人の日々の生活での30分という短い時間を一緒に過ごし積み重ねる事で見えてくる気持ちがある一方で、私達訪問看護は、お聞きしたお話のみでご本人の全てを分かった気になってはいけないという事に気をつけています。私達自身の中の価値観でご本人の全体像を決めつけてしまうと、その方が本当に伝えたかった思いが分からなくなってしまう恐れがあるからです。私達自身が見ているご本人の姿は1週間の内の30分であり、全てを理解できる訳ではないからこそ、時間を掛けて試行錯誤を重ね一緒に悩みながら生活への支援をしていく事が訪問看護で伺う上で大切だと考えています。
訪問看護が考える「目指すべき地域生活」とは私達が自分の価値観をご本人に当てはめて考えるのではなく、ご本人の抱く価値観がどういったものなのか、どんな将来を描いているかを、時間を重ねて知っていき、よりその人らしく豊かに過ごせる事だと思います。ご本人が地域の中で自分らしく生き生きと暮らせるように、共に考え寄り添いながらサポートしていく事が訪問看護の役割だと考えています。
訪問看護師 木之下 侑奈